★武田薬品がアイルランド製薬大手シャイアーを約7兆円で買収.日本企業お得意の高値掴みM&Aの可能性★

武田薬品のM&A

 

武田薬品工業は2018年4月8日,アイルランド製薬大手シャイアーを総額約460億ポンド(約6兆8000億円)で完全子会社化すると発表した.

→武田、シャイアー買収で合意 日本企業で過去最大額(日本経済新聞)

 

 

日本企業によるM&Aでは過去最大の買収金額である.凄い買収金額だな!どのようなデューデリジェンスを実施したのだろう?と新聞や経済番組をウォッチしていたのだけれども,どうも的を得ない報道ばかりでモヤモヤするので考察したい.なお,日本屈指の製薬会社である武田薬品工業のファイナンス部隊が,精緻に計算した数値に対して分析できるスキルもつもりもない.簿記3級の素人M&Aウォッチャーの感想文という程度の認識でご覧になっていただければ幸いである.※以降為替は「USD/JPY=110」「GBP/JPY=148」で計算することとする.

 

 

武田薬品工業からのプレスリリースは次の資料を参照.

→タケダによるシャイアー社の買収

 

 

プロフェッショナルの分析は次の資料が参考になる.

→武田薬品が仕掛ける巨大M&Aのメカニズムとは?

 

 

 

●武田薬品工業のシャイアー買収額:約6兆8000億円(約460億ポンド)

 

 

当初のシャイアー買収提示額は400億ドル~500億ドルと予想されていた.日本円で4.4兆円~5.5兆円程度であろうと見込まれていたわけだ.この数字は,買収発表直前(2018年3月26日)のシャイアーの時価総額が約30億ポンド(約4.4兆円)であったことから,買収プレミアムを20%乗せた金額程度になるだろうという妥当な予測であったと思う.

 

 

それが結果的に6.8兆円で買収契約が成立したわけだ.武田薬品工業は少しでも安く買収したいし,シャイアー社は少しでも高く売却したい.買収側の武田はEV/EBITDA倍率を根拠に良い買収であったと語っているが,買収側が高い買い物になりましたとは口が裂けても言えないので,株主説明用にひねり出したのだろう.シャイアーは実に上手い売却をやってのけたと思う.

 

 

買収金額の評価をする際には,今回の武田薬品がアピールしているEV/EBITDA法であったり,PER法であったり,収益還元法であったり様々な計算方法があるけれども,武田はシャイアーの稼ぐ力のキャッシュフローと研究開発力,特許,そして新薬の可能性を高く評価したわけだ.この「企業価値/EBITDA倍率」の指標が好きではないので,シンプルな数字を元に考察したい.

 

 

●シャイアーの業績(2017年度) 売上高:約1兆6600億円(151.6億ドル),営業利益:約2,700億円(24.5億ドル),純利益:約4,700億円(42.7億ドル),買収プレミアム:54%(6.8兆円(買収額)÷ 4.4兆円(買収発表前時価総額)= 1.54)

 

 

タケダはシャイアーを時価総額の1.5倍の金額で買収したことになる.プレミアムを乗せすぎではないだろうか? そして営業利益から買収額を検証してみると「6.8兆円(買収額)÷ 2,700億円(営業利益)= 25.2」 となるので,武田薬品はシャイアーを売上高の約4倍,営業利益の約25年分の金額で買収したことになる.別にこの数字だけを見て割高だと述べたいわけではない.

 

 

例えば,4年前の2014年にサントリーホールディングスが,米ウイスキー大手のビーム社を総額160億ドル(約1兆6500億円)で買収した際は,ビーム社の買収前売上高は約25億ドル(約2580億円),純利益は3億8000万ドル(391億円)であったので,買収金額は売上高の6.4倍,利益の42倍になる.当時は高すぎる買い物と批判もされていたが,ジムビームというブランド,ウィスキーが装置産業であることを考えてこの高いプレミアムを支払う価値があるとサントリーは考えたわけだ.

 

 

一方でシャイアーがこれまで爆発的に成長してきて,現在優良企業であることに異論はないものの,これからも成長企業であり続ける保証はどこにもない.製薬は業績が大型製品(ブロックバスター)に大きく左右されるのは承知の通りである.シャイアーが持つADHD薬ビバンセが,年間2000億円以上を売り上げており毎年売上が成長しているとはいえ,5年後の2023年に特許は失効する.武田薬品自体が糖尿病治療薬や血圧症治療薬,消化性潰瘍薬の特許切れによる業績停滞に苦しんでいる.

  

 

結局のところ,製薬は研究開発と特許と人材に大きく左右されるボラティリティの高い事業だ.シャイアーの研究開発力を評価しているようだが,将来的にも画期的な医薬品を開発できるかは誰にもわからないし,それを狙って出来るのだろうか? 

 

 

技術や装置,ブランドへの投資や,商社がやっているような資源等への権益への投資,ソフトバンクの孫正義氏が得意なベンチャー投資であれば,投資対効果の最大化や成長への投資として,上手くいけばリターンが大きく見込める場合もあるけれども,今ある設備と特許と研究が,今後の収益と将来的な競争力に反映されるか不透明な製薬業界で,大きなプレミアムを上乗せして買収することは,リスクの方が大きいのではないだろうか? と考えた次第である.

 

 

医薬品は市場拡大がこれからも約束されているとはいえ,たとえそれが割高な買収額になるリスクに目をつぶってM&Aにぶっ込むしか成長を示せないというのは,既存株主としては不満であろうし,従業員としても厳しい現実である.武田薬品には日本最大の製薬会社として更なる成長と飛躍を期待したい.

 

 

※追記

→武田薬品、7兆円巨額買収を断行した「必死さ」の裏側

憶測交じりの解説記事だけれども,値段のつり上げにまんまと乗せられてしまったのでは? という武田既存株主の不信が深まることになることは間違いない.欲しくて欲しくて堪らない素振りを見せてしまったら,そりゃ相手は出来るだけ高く売るべく画策する.本件は誰が賢く狡猾であっただろうか?

 

→武田薬品の超大型買収で感じた「不快さ」

主観的で感覚的な内容の記事だけれども,大変に良い.21世紀に入って,創薬に限らず,日本から世界にインパクトを与える新しいモノ・サービスはほとんど出ていないのではないか? 残念なことではあるけれども,これが現実である.