★“新入社員の残業”超勤やパワハラへの対応“100時間残業”★

2016/10/10

新入社員の残業 , 100時間残業

画像:christakakura.com

 

◆100時間残業は珍しくない | 問題は100時間の超勤よりもパワハラ | 新入社員の残業との付き合い方と超勤問題の闇 | ブラック企業の判断基準は不払い残業の有無◆

 

痛ましい事件が起きました.広告大手の電通に勤務していた女性新入社員(当時24歳)が2015年12月末に自殺.2016年9月30日に労働基準監督署が労災認定したため,本件が明るみに出た次第です.お亡くなりになられた高橋さんに心からお悔やみを申し上げるとともに,ご両親や親族,親しかった方に哀悼の意を表します.私は今回の件はほぼ100%会社側に過失と責任があると思っておりますし,亡くなられた女性を責めたり根性なしなどと言うのは最低の屑だと思っていますが,テレビでほとんど報道されない点や,ネット界隈の好き勝手な炎上を見て,学生の不安を煽ってどうするんだ? ともやもやとした違和感を感じましたので,新入社員の皆さんに向けて,残業との付き合い方を含めた考察を綴ります.

 

 

●なぜ東大卒 電通社員の自殺事件が話題となり炎上したのか?

今回の事件がなぜ話題となり炎上しているのか? 先ずは冷静に整理してみましょう.以下の4点にて説明出来ると考えています.

 

①自殺した女性が東京大学卒の可愛らしい新入社員であった.

②自殺女性の勤務先が電通であった.

③SNSに過剰労働とパワハラの実態を投稿しており,事実が明らかになった.

④テレビ放送をはじめとする報道がほとんど話題にしなかった.

 

画像:毎日新聞

 

この4点の内の1つでも欠けていたら,これほどネットで注目されなかったでしょうし,便乗したTwitter投稿やBLOG記事が炎上することもなかったことでしょう.まずこの点は共通認識として持っておくべきだと思います.

 

というのも,2014年度の過労死等の労災補償状況(生命文化センター調査)によると,過労死の年間請求件数は763件,認定件数は277件となっており,日本では最低でも年間270件以上の過労死が起きています(泣き寝入りや未確認の未請求分も考えれば,1000人以上の過労による死亡が起きている可能性さえある).

 

つまり,悲しいことに過労死自体は決して珍しいケースではないのです.もしも今回自殺した女性のステータスが,東京大学卒という学歴エリートで,綺麗な新入社員で,電通という就職偏差値最上位グループの企業で,過剰労働やパワハラの実態を公の場に記録していなかったならば,放送局は気づきもしなかったかもしれませんし,インターネットメディアや個人が見つけることは出来なかった.私はこう考えています.この国のテレビや新聞を中心とする大手マスメディアのジャーナリズム精神には微塵も期待できませんしね.

 

●“100時間残業の是非”過剰労働を肯定するのは時代遅れ

この事件は普通の感覚では,企業や現場の管理職に責任が問われるべきだと認識されそうなものですが,武蔵野大学のある教授がこの痛ましい事件の火に,盛大にガソリンを注ぎました.

「月当たり残業時間が100時間を越えたくらいで過労死するのは情けない。会社の業務をこなすというより、自分が請け負った仕事をプロとして完遂するという強い意識があれば、残業時間など関係ない。自分で起業した人は、それこそ寝袋を会社に持ち込んで、仕事に打ち込んだ時期があるはず。更にプロ意識があれば、上司を説得してでも良い成果を出せるように人的資源を獲得すべく最大の努力をすべき。それでも駄目なら、その会社が組織として機能していないので、転職を考えるべき。また、転職できるプロであるべき長期的に自分への投資を続けるべき。」

100時間を超える残業とパワハラは明らかなのに,自殺した女性に責任感を問うています.奮起を促しているように読めなくもありませんが,彼女は亡くなってしまっている.つまりは,この投稿は大学教授による大勢の働く若者や労働者に向けてのメッセージなわけです.知名度やPV稼ぎの確信犯的な炎上であれば,酷いメッセージだとは思いつつ理解できなくはないのですが,その後ツイートが削除され,謝罪されております.

 

つい先日も透析患者の方を話題にした酷い記事でフリーアナウンサーが社会的に消えかかっている事件が起きたばかりですのに,壮大な炎上事件を起こすとは,大学教授なのに情報収集力と学習能力に欠けているのかもしれません.その後,本投稿の価値観や考え方,謝罪文に誠意が感じられない等の否定的な感情でインターネットを中心に炎上が続いています.

 

この教授の意見を肯定する気はさらさらございませんが,偉そうなことをドヤ顔でつぶやいたおじいちゃんを,そこまで責めなくてもと思うのです.価値観や考え方は人それぞれですので,発言は自由ではないですか? 亡くなった女性への敬意に欠けますし,過剰労働を美学とするようなスタンスは残念で痛々しくさえありますが,透析患者に死ねと言った某長谷川アナと違って,弱者を責めているわけでもありません.罵倒したり制裁したり,吊し上げられなければならないほどの罪をこの教授は犯したのでしょうか?

 

罪の大きさが大衆の感情によって判断され,まるで私刑のようなネットリンチが起きていることに恐ろしさを感じます.新約聖書でイエスが「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が,まずこの女に石を投げなさい」と語ってから2000年以上経って,石を投じる人間が外野や姿の見えない人に広がっていることは,本当に嫌な気持ちになります.私は炎上の怖さを学ばせてくれてありがとうと伝えたい.

 

●100時間残業との付き合い方 健康以上に大切なものはない

さて,話題が逸れてしまいました.学生が心配するのは「100時間残業」の有無と普遍性についてだと思います.個人的な経験から語れば,100時間残業は,残念ながら決して珍しいケースではありません.私は年間有給休日が20日以上付与され,消化率は常に8割以上でしたし,不払い残業(いわゆるサービス残業)は1時間もしたことがないくらいのとてもホワイトな企業に10年少々勤めていましたが,月間100時間残業は2度ありました.繁忙期がはっきりとわかれていたため,年間超勤時間は500時間程度で済みましたが,月100時間超勤は経験もあるし,たまに聞くよねという話です.

 

これはどれくらいの労働なのか具体的に示してみないと,言葉が先行してイメージし辛いのではないでしょうか? 一般的な9時から17時30分勤務の企業において22時まで残業すると4時間残業となります(30分休憩がシステムで引かれて実際に休憩する).土日を除く平日勤務22日で88時間.月に2日の休日勤務8時間×2日で16時間.88+16=104時間です.結構なハードワークですし,机上で計算しているだけで残業の思い出が蘇り,疲労感が込み上げてきます(^_^;).

 

ただし,この労働時間については,これと同等かそれ以上に働いている方は決して珍しくないどころか散見されるケースであることを,学生さんに伝えておかねばなりません.電通に限らずマスコミや商社の激務は耳にしたことがあると思いますし(火のないところに煙は立たない),身近な先輩後輩の話が誇張でないとするならば,リクルートやキーエンスの残業は相当なものです(年間800時間以上働いている人も珍しくない).おそらく,たくさん働いているから給料も良いのです(長時間労働しても給料が悪い企業がどれくらいあることか)(興味のある方はデスマーチで検索下さい(>_<).

 

過労死が発生するような労働環境を許している企業や,日本の労使の在り方については様々な意見があると思いますが,リアルな現実として100時間残業もハードワークもある.要はそれにどう対処すべきかを若手社員や学生の方は知っておいていただきたいし,最後に自分を守れるのは自身だけだということを忘れないでいて欲しいと思います.

 

亡くなられた電通女性新入社員は労働環境だけではなく,ハラスメントの問題が疑われておりますが,もしもあなたが意識高い系(あえてこの言葉を使います)で,出世競争を勝ち抜き,多くの収入を得たいと考えているならば,ハードワークは覚悟せねばなりません.長時間労働の是非や生産性の有無の話はもっともだけれども,目の前に残念ながらハードワークはある.

 

だから,大切なことの順序を常に意識していただきたい.自身の健康が第一なのは言うまでもありません.超勤が嫌だとか無理だとかは,追い詰められている時に言えたら苦労はしませんが,命よりも大切なものが他にあるでしょうか? そしてあなたがもし電通や商社や大企業の社員なら,社内でドロップアウトしたって良いではありませんか?(健康を崩すくらいなら).窓際(死語かな?)も一つの選択肢として検討する価値はあると思います.それでも30歳で700万円,40歳で800万円以上は確約されます.

 

遅刻,早退,欠勤がなく,社内の規定を守っていれば,簡単に企業は社員をクビに出来ません.正社員の特権を大いに活用してやろうではないですか.と独立した立場からは思うのです.だからこそ,就職活動は大切であり,新卒入社先は慎重に選ぶべきです.それなりの企業への就職を果たせば,正社員の権利はかなり手厚く守られる.上昇思考も責任感も結構ですが,健康は金では買えないことだけは忘れないでいただきたい.

 

●正確に残業時間を記録して不払い残業を証拠に残そう

超過労働に悩んでいる方や,労働環境に疑問を感じている方は,自衛手段として記録を正確につけましょう.労基署に相談するにせよ,裁判を起こすにせよ,武器になるのは正確で客観的な事実データです.危険や危機感を感じたり,理不尽なことを覚えたら,とにかく記録を残しましょう.※個人的に敏腕弁護士の過払い金訴訟の次のネタは不払い残業訴訟だと予想しています(`・ω・´)キリッ.

 

何が言いたいのかというと,残業を問題視する時は「不払い残業の有無」と「恒常的な過剰労働」を注視すべきであって,盲目的な視点で単純情報を根拠に責め立てても説得力を持たないのでは? ということです.だから外野が責めるのは自由だけれども,攻めどころが感情的だと改善に繋がらないのでは? と思わずにいられません.

 

中には「300時間残業」を語る人も現れて,残業自慢をしてどうするんだ!(決して自慢されているわけではないが,そのように読んでしまう)と思ったり,電通に怨念や嫉妬がある人々が現れたりと,彼女の自殺が格好のネタとして便乗されているのは,嘆かわしい事態だなと思わずにはいられません.※300時間残業は月に460時間以上勤務.

 

●パワハラをする人間を管理職にすることは事業リスク

にしても,電通に限らずどこの企業にも程度の差こそあれ,パワハラやセクハラをする人間はいます.それが上司になった時の絶望や苦悩は経験した方にしかわからないかもしれません.私は全然軽度なものですが,ろくでなしのパワハラ上司に当たったことがありまして,なんでこんな人間を管理職にするのだろう? と会社の人事評価の信頼性のなさにウンザリしたものです.

 

たまにあるケースとして,個人としてはスキルも実績もそれなりにあるけれども,人間としてや上司(マネージャ)としてはろくでなしというパターンです.マネジメントスキルの欠片もない人間がチームや組織の上に立つと悪夢です.経営者や人事担当の方には,プレーヤーとマネージャに必要な資質と能力は違うっていう当たり前のことを認識して組織構成しろよ!と伝えたいです.

 

自殺した女性社員のSNSへの投稿のまとめを先ほど転載しましたが,パワハラの程度は図りかねるものの,間違いなく働きやすい環境がマネジメントされていたとは思えません.今回の事件を含め,人事部の役割自体に個人的には懐疑的ですが,労働環境は人と組織がつくることを今一度組織の長は考えて,仕組みから見直していただきたいものです.

 

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