★新卒一括採用は学生と企業の双方にメリット 廃止すべきは年功序列★

 

2014/12/07(2017/01/20 加筆)

 

新卒採用のメリット

 

◆日本の若者雇用は新卒一括採用が支えている | 生産性の低さの元凶である年功序列制度の見直しは待ったなし◆

 

ヤフー株式会社が新卒一括採用を廃止し,新卒や既卒,第二新卒などの経歴にかかわらず30歳未満であれば誰でも通年応募ができるようにする制度を発表してから,新卒一括採用の是非を巡る議論が活発化している.個人的には日本の新卒一括採用は社会のセーフティネットであり,世界有数の高雇用率を実現している素晴らしい制度であると考えており,欧米型の実務経験重視,即戦力採用は馴染まずデメリットが大きいと考えている.それよりも日本の悪しき慣行である年功序列制度を早く破壊しないことには,日本の生産性の低さは永遠に解決しないと考えるので,考察していきたい.

 

先ず,日本の学生の就職活動を語る上で新卒一括採用制度の是非を語らねばならないだろう.ご存知の通り,大学3年生の秋冬から学生は就職活動を開始し,早ければ大学4年生の春,遅くとも卒業までに新卒としての最初の入社先を決め,社会人としてのスタートを切る.日本ではリクナビをはじめとする就活ポータルサイトを学生も企業も活用することにより,就活&新卒採用のマッチングは円滑に行なわれ大学卒時点の就職率は90%を超えている(2013卒は約94%).この日本の新卒一括採用は世界でも独自の制度であり,近年この日本のガラパゴスの就活がグローバル競争で勝ち抜く障害であるとか,見直すべきとの議論もなされている.学生と企業にとって新卒一括採用は本当に問題のある制度なのだろうか.

 

 

●新卒一括採用により日本の若者の雇用率は先進国トップクラス

 

世界の若者の失業率をご存じだろうか? サブプライムローンを発端とした世界金融危機や欧州危機等,この数年で幾度かの危機が訪れ不況が繰り返されているが,いま大きな問題の一つになっているのは若者の雇用不安である.世界中で職に就きたくてもつけない若者で溢れ,将来への不安を感じているのである.世界でどれくらい若者の失業が問題になっているかを具体的なデータを元に比較したい.

 

「世界の若年層(15歳~24歳)の失業率」

世界平均:12.7%(2012年末時点)

アメリカ:約17%(2013年3月時点)

EU加盟28カ国平均:23.5%(2013年7月時点)

日本:8.1%(2012年末時点)

※参考:→若年者雇用対策 ,→EU MAG

 

なお,世界2位の経済大国となった中国でも,大卒予定者が700万人/年を突破し,難関大学を卒業したにも関わらず希望する職種(主にホワイトカラー)に就職することができない学生も少なくなく,就職難が社会問題化し始めている.

 

 

●日本独自のの就活制度が若者の安定した社会進出に貢献

 

一方で日本の15歳~24歳の若年層の完全失業率はこの10数年,7~10%台で推移しており,世界に目を向ければ,日本は若者が職に就く環境が充実していると断言して間違いない.これを支えているのが新卒一括採用であることに疑問を挟む余地はないだろう.学生は志望する企業に簡易にエントリーすることができ,エントリー上限もないため,倍率や難易度の違いはあれど,ほとんどの学生が企業への就職を果たすことができる.

 

だから私はリクナビ否定論には懐疑的である.就活ポータルサイトを否定する意見はその発信元を注視した方が良いだろう.学生にとってこんなに便利なシステムを否定するのは,採用コストをなんとか押さえたいと考えている企業側か,リクナビからシェアを奪い取ろうと考えている新興勢力(or どちらかの関係者)であることが少なくないからだ.リクナビの利用料の高さ(ぼったくりとも言える価格体系)に不満はあろうが,新卒採用は絶対に維持すべき日本の素晴らしい就業システムである.

 

もしこれが新卒一括採用の見直しや効率化などで就活機会,つまりは採用のチャンスが限定されることになれば,学生の負担はいまとは比べ物にならないくらい増大するだろう.結果,就活格差は拡大し,内定を得られず大学卒業をする就職浪人が大量発生しかねない.親の収入による教育の格差だけでなく,正社員と非正規雇用の就職格差や収入の格差がいま以上に進むことは間違いない.

 

新卒採用制度

 

●破壊すべきは年功序列制度.同一労働同一賃金の導入へのトリガーとなる

 

この新卒一括採用がいかに素晴らしい制度であるかは,就職活動を観察してみると良い.語学力やプログラミングなど即戦力となるスキルを身に着けている学生を採用する場合もあるが,将来活躍が出来そうとポテンシャルに期待して採用することがほとんどである.つまり,企業が学生を育てることを前提に採用している.新入社員はOJTや業務を通じて学び一人前に巣立っていくのである.この制度がなくなり不定期採用が標準となれば,フランスのように成熟化した社会であるにも関わらず,失業率の高さに社会不安を起こしかねない.

 

ではいったい日本の雇用の問題はどこにあるのか? グローバル市場競争で優位なポジショニングを取る人材戦略は新卒一括採用を変更するのではなく,年功序列制度にメスを入れるべきなのは明らかだろう.能力や仕事内容に関わらず年齢とともに賃金が上がっていく.年収が400万円以下の25歳の契約社員が実施している仕事の,半分以下の貢献しかできない年収800万円の50歳代社員が多すぎる.

 

これは社員の問題ではなく制度の問題だ.年配社員は若い頃に安月給で頑張って働いていたかもしれないし,いま給料を減らされると子どもの教育や住宅ローンに悪影響を及ぼすかもしれない.それでも少子高齢化が進み経済成長が見込めない中で,年功序列という非生産的な制度と不公平な配分が現場の士気を低下させている.将来に続く安定と昇給が見込めないにも関わらず,目の前の仕事のできないおじさんが自分よりもずっと給料を得ているとするならば,どうしてやる気を維持することができるだろうか.

 

 

●日本の今後の新卒採用&雇用体制への提言

 

新卒一括採用で若者の社会進出を確実なものにし,年功序列で企業が労働者の生活を支える制度は,それが機能する限りは素晴らしい制度であろう.だがその仕組みの崩壊が確かな確率で予想できる今,迅速に新たな制度への移行を図るべきである.日本に成果主義が根付かなかったのはその評価の仕組みに欠陥があったため(適切な評価がされない)であり,労働内容と成果を適切に評価すれば,その対価を測ることは決して不可能ではない.年配社員の給料を直ちに適正給与に正せなどと乱暴なことは言わないが,目標年度を設定して,年棒制+成果給(業績連動ボーナス)など新しい報酬の仕組みを検討すべき時期ではないか?

 

同一労働同一賃金が理想とされるのは,それが誰の目から見てもフェアであるからである.逆に同じ仕事をしながら得られる給料に格差がある現状では,優秀な若者や外国籍人材を採用することは厳しいだろう.優秀であればあるほど,自身の能力に対する適切な対価を望むためである.話がやや脱線したが,新卒一括採用は若者のキャリアや社会安定のためにも絶対に維持せねばならない.ただ,日本企業の更なる国際競争力向上のためには,年功序列という楔を壊し優秀な人材に権限と報酬を付与できるような新たな人事制度の運用が急務ではなかろうか?

 

もしくは大手企業は内部留保を貯め込んでいるので,給与を軸とする待遇を向上させ社員に手厚く報いることで,組織の士気向上に貢献できると考える.だって,平均給与が下がり続ける国の企業では働きたくないと,優秀な日本人学生が声高に叫び始める前に.

 

<参考記事(優良外部サイトリンク)>

→新卒一括採用を安易に叩くな

→「新卒採用」の潮流と課題

 

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