★JALのオーバーブッキング対応が残念な件「福岡便欠航で会社も顧客も大損失」特典付与の処方箋★

JALオーバーブッキング

 

◆「JALのオーバーブッキング欠航における問題点」「JALはオーバーブッキングに対して顧客へケチ臭い対応を採り最悪の事態となった」「損得の本質を見抜き現場に権限を与えて賢い運用を図るべき」◆

 

2018年11月21日の羽田発福岡行きの日本航空(JAL)最終便が欠航した.理由はオーバーブッキングだという(→JAL福岡便、オーバーブッキングで欠航。約400人に影響).オーバーブッキング自体は珍しいことではない.しかし,オーバーブッキングによる欠航はJAL史上でもはじめてだという.なんでこんな馬鹿馬鹿しい事態になったのか考察することとしたい.

 

事実関係を先ずは整理しよう.

  • 定員:375席
  • 予約:401人
  • チェックイン:395人

結果20人オーバー.慌てて後続便や他の交通機関に振り替えてもらう人を募集する「フレックストラベラー」の集客をしたが,調整に時間を要したため,福岡空港の営業時間22時までの到着が間に合わないことが決定的となり本便は欠航.395人に補償をする事態となった.飛行機の欠航に直面したことがある方であればわかっていただけると思うが,おそらく現場は修羅場である.

 

これによりJALが被った損失は395人×2万円(欠航補償金).一見すると約800万円のように計算してしまいがちであるが,これは直接かつ最低限の補償の価格であり,JALが実際に発生した損失は,最終便が運行しなかったことによる純損失が加わる.安く見積もって欠航便の2万円×400人の800万円(機会損失金).そして本件は純粋にJALの過失であるため,旅行客の損害も補償しなければならないだろう.一人当たり追加で2万円×400人の800万円(関連補償金).

 

合計するとオーバーブッキングによる欠航でJALが発生させた損失は800万円×3項目=約2400万円になる.そして失墜した信頼と顧客ロイヤルティはプライスレス.

 

オーバーブッキング制度自体を否定するつもりはない.よくできた制度だ.航空会社は基本的には装置ビジネスであり,固定費が一定であるのでどれだけ搭乗率(乗車率?)を高められるかにかかっており,チケット代を2万円とするならば,200人搭乗なら400万円,300人搭乗なら600万円,満席の375人搭乗なら750万円の売上になる.

 

375人満席の予約で750万円の売上を得るだけでなく,さらに稼ぐために400席のチケットを売る.800万円の売上を確保して5%=20席のキャンセルが発生し+5人に「フレックストラベラー」として2万円の特典を付与してキャンセルを促したとしても,790万円の売上である.純粋に定員分を販売するよりも40万円稼げるし,割合にすれば1.05倍の売上(5%増)である.

 

だから人気路線や繁忙期にはオーバーブッキングも辞さずにチケットを販売する.ちなみに航空会社はIT途上国の日本企業の中ではもっとも高度なITを導入しており,過去の実績や予測を駆使して計算しているので,オーバーブッキングによるキャンセル募集が発生することはほとんどない.あっても数席分であり,世の中にはマイル乞食がゴマンといるので,大抵は「フレックストラベラー」権利の先着になる.

 

だが最終便ということもあり今回はそうはならなかった.何が問題であったのだろう? 最終便でオーバーブッキングを受け付けたことであり,オーバーブッキングをチェックインの後に対応したことであり,キャンセル特典をケチったことにある.現場の社員を責めるのは酷であるが,現場の社員への権限移譲がほとんどなかったため,対応できなかったのではなかろうか?

 

おそらくマニュアルに縛られているのだ.もっと言えば福岡空港に22時以降の着陸を臨時で認めさせる努力があっても良かった.杓子定規な運用が大好きな日本の非生産的な社会はその運用によるメリットを叩くだろうからできないかもしれないが.

 

もちろん安全な運行が第一であるので整備や操作に関わる部分については厳密にルールを守らせるべきだが,チケット販売や搭乗人数という安全にも安心にも関係がなく,金勘定でしかない部分は柔軟に対応させるべきであった.

 

チェックイン人数が定員に迫った時点で,オーバーブッキングのおそれがあり,特典をあらかじめ提示することでキャンセルを促すべきであったし,チェックインが20人を超えるという緊急事態を発生させてしまった後であれば,通常とはかけ離れた多大な特典であったとしても,それを支払って運行させなければならなかった.

 

そもそもたった2万円で予定を変更すると思うのか? デフレ社会の日本は時間の価値が著しく低くて驚く他にない.それなりの対価として5万円×20人へ特典を付与したとしても100万円の損失であり,2400万円の損失の24分の1の損害で済む.

 

物事はこれほど単純ではないにしても,日本企業は往々にしてトロッコ問題に最適な解を出せずに最悪の損失を選ぶことが多い.マニュアルに書いてあることしか実行できないし,そもそもマニュアル外のことをすると罰を与える,もしくは損をするような意識醸成をしているためだ.個々人はそれなりに優秀であるのに組織になると救いがたい無能な集団になる.

 

大盤振る舞いの特典を付与したとして,実損を防ぎ,顧客の信頼やロイヤルティを維持できただろうに,最悪のオーバーブッキング欠航という汚点を残した.その理由の分析と改善が見当違いな結果にならぬことを指摘し,国交省が権益拡大を狙って酷い規制に踏み出さないことを願う.そして,工夫や改善や現場対応力や創造性とは何なのかを考える機会にしたいと思う.

 

(追記)

 

乗客を引きずり下ろしたことで炎上したユナイテッド航空(引きずり降ろされた客は訴訟による億単位の補償を得るだろう.そこまで報道すべきなのに日本のメディアは無能力の極みなので,炎上にガソリンを撒くのが得意なだけでなく,有害物をバラマキ周囲に害悪をもたらす)はオーバーブッキングにカネを積む解決策を提示した.(→米ユナイテッド航空、オーバーブッキング補償金を最大1万ドルに

 

これはオーバーブッキングをコントロールできるという覚悟の表れであり(一席/100万円 を補償する必要があればオーバーブッキングを発生させないように努力する),問題は金で解決するという合理的選択の結果であり,ITとAI(日本がいうAIは頭が悪すぎるのでこの表現は使いたくないが)を駆使すればオーバーブッキングをしないギリギリの搭乗率も確保できるだろう(搭乗率98%くらい).

 

「2万円を払うから旅程をキャンセルしてもらえませんか?」と促す側も,そんなはした金でボランティア精神でオーバーブッキングに応じなければいけない側も,日本の絶望的に貧すれば鈍する現実に誰かがNGを声高に叫ぶべきなのに,そうはならない絶望的な現実である.

 

要は米国も中国も面倒な事態を起こさないために金で解決するという合理的な判断が働くのに際して,日本は少しの出費や損失を払って傷口を狭める努力ができない無能な組織であり(タカタや神戸製鋼や雪印を例に出すまでもなく)第二次世界大戦の時代から何も学ばず大抵の意思決定者は無能であり,現場の力が活かせないから残念な結果に至るということではないだろうか?